移行期はトランジションともいい、これまで小児外科がメインだったのが、身体の成長に伴い、成人の診療科へと関わりを持っていくことを指します。日本では、まだ移行期医療についての試みや研究は始まったばかりです。ここで一緒に考えていきたいと思います。

 ここで書かれている考えについては、肝ったママ独自の考察も含まれており、必ずしも現在の移行期医療のスタンダードではありません。日本での移行期医療、特に小児の肝疾患については、まだ始まったばかりです。しかし、移行期医療というのは、医療者側だけが考える問題ではなく、患者側、特に患児の保護者側も考えていくべき問題であると思います。ぜひ、読者の皆様もご意見をお寄せください。

移行期とは

 医学の進歩により、昔では救えなかった小児の病気が救われるようになりました。しかし、完治するには至らず、なんらかの症状を抱えたり、合併症を伴いながら成人する患児も多くおられます。これらの患児は、成人していく過程で、身体の変化に伴い、病態(病気の状態)が変化することもあり、また新たな合併症や成人の病態が加わっていくこともあります。
 そのため、従来の小児科や小児外科では成人期の病態や疾患を診ることが出来なくなり、成人診療科の受診を必要となる場合もあります。しかし、成人診療科にとって、患児が抱えている慢性の小児疾患は必ずしも診察・診断ができるものではありません。そのため、小児期医療と成人期医療の両方で、患児・患者に対する診察及びケアを行なっていく必要があります。
 この小児期医療から成人期医療への移り変わる段階を移行期(トランジション)と言います。

 日本小児科学会では、2014年に「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」(以下、提言)を示しました。提言にそって考えていきたいと思います。

基本的な考え方

 移行期の年齢は、病気によって考えられるものであり、何歳から何歳までという明確な定義はありません。胆道閉鎖症や乳幼児肝疾患に関して言うのであれば、概ね思春期がその時期と思われます。

【基本的な考え方】
・移行期においていかなる医療を受けるかの決定権は患者にある
・病態の変化と人格の成熟に伴い、小児期医療から成人期医療へ移行する間で、これら2つの医療の担い手 が、シームレスな医療を提供することが期待される。
(日本小児科学会:小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言より)

 提言の中で重視したいのは、「決定権は患者にある」という文言です。これは、患者本人の病態が小児期医療ではカバーしきれない場合、成人期医療への受診を「医療者側が勧めた」としても、診察を受けるかどうか、主治医は小児期医療をメインとするか、成人期医療をメインとするか、などは「患者が決定する」という意味だと思います。なぜこの決定権が重要かというと、それは「患者と主治医の信頼関係」にあると思います。
 成人期になってから罹った病気とは違い、小児期の慢性疾患(胆道閉鎖症や乳幼児肝疾患)は生後まもなく発病し、主治医との信頼関係は、幼少期に始まっています。患児本人の意識にしてみれば、小児期医療の主治医は、感覚としては親や家族の次に「付き合いの長い人」です。(途中で主治医の退職や転職による変化はあれど)そうした十数年の信頼関係を考えず、移行期をおかずに成人期医療へスィッチするのは、難しいと思われます。とある日に「これは小児科の病気じゃないから、明日から成人診療科で診てもらって」というのは、患者にとってみれば「見放された」感じや「放り出された」感じになりかねないです。
 そういった移行期医療の不安感をなるべく軽減するためにも、「小児期医療」と「成人期医療」がシームレスに提供されるべきということです。

移行期の医療システムのパターン

 小児期医療から成人期医療へのスムーズでシームレスな移行(トランジション)がされるには、提供される移行期医療のパターンについて、考えなければなりません。現在提言されている移行期の医療システムは、以下の4つがあげられます。

1.完全に成人診療科に移行する
2.小児科と成人診療科の両方にかかる
3.小児科に継続して受診する
4.どこにも定期的に受診しない
(日本小児科学会:小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言より)

 この4つの医療システムのパターンは、柔軟に対応されるべきとも提言の中では述べられてます。疾患の違いによっては完全に成人診療科へ移行できるパターンもあれば、併発する病態によっては小児科と成人診療科が協同で診察をした方が良いパターンもあるでしょう。また、小児科をメインとし、必要に応じて成人診療科の意見や診察を受けるパターンもあるかも知れません。
 もちろん個々の症状などによって、最良最適な医療システムのパターンを選択し、患者が決定をできることが一番重要で理想であると思います。

【参考】
日本小児科学会:小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言
Facebookページ:移行期医療の広場
医学書院:看護師,医療スタッフのための 『移行期支援ガイドブック』とは

保護者はどうあるべきか

 移行期医療に関しては、医療者・患者・患者の保護者という三者が関わっています。提言は、医療側からの提言であり、それに基づいてどのような課題があり、それに対して今医療側ではどのように問題解決をしていくべきかを述べています。肝ったママでは、患者の保護者という立場から、提言とまではいきませんが、「移行期医療に関して、保護者はどうあるべきか」を考えていく必要があると考えます。
 提言をふまえて、肝ったママが考える「移行期医療に向けて、保護者はどうあるべきか」を以下4つにまとめてみました。

(1)保護者が病気について勉強する。
(2)患児の自身の病気への理解を家庭で行う。
(3)患児の受診時の自立を意識する。
(4)移行期準備期を家庭内で考える。

(1)保護者が病気について勉強する。

 スムーズに移行期医療を行うには、患児が将来、自立することが大前提と考えます。提言で述べられているように、「決定権は患者にある」からです。患児が自身の受診に関する権利を決定できるには、患児自身が自立していなければできません。そう考えた場合、患児の自立を助ける役割は必然と保護者が主体となり、医療者はあくまでサポート的な役割になると考えます。
 患児の自立を助けるためには、保護者が病気について勉強し、理解する必要があります。勉強は、必ずしも図書館行って難解な医療書や医学論文を読むことではありません。患者会に参加して色んな経験者の話を聞いたり、学会などで行われる市民講座や医師の講演会などで情報を仕入れることでも大きく違います。また、外来時に病気について主治医に質問することもお勧めします。
 慢性疾患は症状が落ち着いて安定している時期(寛解期)がながいことがあります。でも、「寛解」と「完治」は違います。病気が完治したと勘違いして、なにも勉強せずにいると移行期医療で戸惑うことが出てきます。

(2)患児の自身の病気への理解を家庭で行う。

 お子さんの性格にもよりますが、病気について、年齢の成熟度に沿った説明を心がけるといいと思います。図鑑で身体の図を見ながら説明するのもいいですし、一緒にお風呂に入っている時に話してみることから始めてもいいと思います。学校での学習度に応じて、少しずつ難しい用語を使いつつ、年齢相応に自身の身体と病気について説明してあげることで、子どもの不安を和らげることもできます。保護者が子どもに質問されてわからない場合も、外来などで一緒に主治医に聞くのも良いかもしれません。親でもわからないことは先生に一緒に聞くことで、この次の項目である(3)患児の受診時の自立を促すことも出来ます。

(3)患児の受診時の自立を意識する。

 外来時に、検査の結果や問診は主治医と保護者の間だけで完結してませんか?病気を持っているのは患児です。未就園児などまだ幼い子ならともかく、学童期に入ったら、少しずつ患児と主治医の会話を増やすように心がけましょう。例えば、診察始まる前に患児に「前回の外来との間で体調崩しちゃったことを、先生に伝えてみようか」とか、「運動会はどうだったか?先生に言ってごらん。」と患児と主治医の会話を病気に関することでもいいですし、大きなイベントなど生活の話でもいいと思います。患児が主治医と会話をすることで、受診は「自分のこと」と意識させ、主治医との間に会話が成り立つことによって、徐々に自身の体調を説明できるように促すといいと思います。

(4)移行期準備を家庭内で考える。

 患児の受診時の自立が見られるようになったら、親は少しずつ外来の場での立ち位置を変えましょう。乳幼児期は親が主体ですが、学童期は親がメイン、子が主治医とも会話し、子の成長に伴い、徐々に外来では子どもと主治医の会話をメインにし、親は付き添いのみ、そしていずれは子どもが自分で診察を受けるようにします。
 しかし、その間は親は子に、受診する意味・検査の意味・検査項目が示している意味・薬を服用する意味などを伝えて理解させる必要があります。移行期に差し掛かる時期は、思春期・反抗期でもあります。思春期・反抗期では、子の心理的な思いから、薬飲まなくなったり、体調管理を怠ることが出てくる可能性があるからです。移行期と思春期・反抗期が重なることで、体調管理を怠り、大きく病状が悪化などしないためにも、上にあげた項目は、意識すべきと思います。