葛西手術で減黄して、自分の肝臓(以下自己肝)で学童期・思春期に差し掛かると、子どもから大人への、身体の変化や心理的成長などに伴い、いろいろな問題が出てきます。ここでは、学童期・思春期の生活などについて、一緒に考えたいと思います。

体調

 成長に伴い、女子は月経が始まります。また、男子も背丈が伸び、体格が大きくなります。こういった急速な身体の変化は、肝臓に影響がでる場合もあります。
 胆道閉鎖症の子どもは、葛西手術後に1/3が減黄せずに1才前後で移植、1/3が成人までに移植、1/3が自己肝で成人後も生活できると言われております。(まったく支障なく健常者と同じような生活ができるのは、2割前後という話もあります。)一旦は落ち着いた体調が、頻繁に胆管炎を起こすようになったり、肝硬変が進んだことによる合併症などが起きたりするお子さんもおられます。そういったことがいつ起こるかわからないため、外来はきちんと行きましょう。身体の調子が良いからといって、勝手に外来に行かなくなったり、お薬を止めることはしないようにしましょう。

心理

 一般の元気なお子さんも、成長とともに心理的には自我が出てきて、反抗期を経て、成人へと発達していきます。学童期・思春期はこの「自我が出てくる時期」と「反抗期」とも重なります。また、この時期の子どもは、親との関係よりも、友人や自分の同世代の人間の関係を重視します。乳幼児期の「親と自分」「家族の中の自分」から、「他人から見た自分」や「集団の中の自分」をより強く意識します。
 「他人から見た自分」や「集団の中の自分」を意識すると、「病気を持っている自分」と「健康な他人」の違いをお子さんによっては、強く意識します。この意識の中で、矛盾した行動が出てくることがあるそうです。

(1)服薬について

 胆道閉鎖症のお子さんは、そのほとんどが物心がつく頃から薬を飲んでいます。薬を飲むことの重要性は、親からの話や主治医との会話で認識していても、身体の調子が良いと忘れてしまう可能性があります。物心がついた頃から、少しずつ子どもにお薬の重要性をお話しましょう。

(2)体調管理について

 胆道閉鎖症のお子さんは、自身の身体は健常の人とは違うという意識はあるようです。しかし、友だちがやっているので、ついつい自分も無理してがんばってしまった、友だちにからかわれたので意地でやってしまった、きちんと休息取らなければいけないのについつい夜更かししてしまった、など無理を通すこともあるようです。
 こうした学童期や思春期での心理から起こる服薬や体調管理の問題については、親だけでなく、主治医と協力して子どもに重要性を理解させる必要があります。

学童期・思春期の移植

 胆道閉鎖症は1/3が1歳まで、1/3が成人までに移植し、自己肝で成人後も生活できるのは全体の2割ほどと言われております。つまり、学童期・思春期に移植するお子さんが少なからずいるということです。学童期・思春期の移植は、乳幼児期の移植とまた大きく違います。乳幼児期の移植は、小さい身体に対し、移植する肝臓が大きすぎる・病気のために成長が遅く、体力がないなどの問題があります。また、学童期・思春期は身体の問題の他にも、患児の心理的な問題、そして学業・学校の問題があります。

(1)心理的な問題

 言葉もまだ言えない赤ちゃんやまだ幼い子どもの頃とは違い、学童期以降になると、理解力があります。移植手術そのものについての不安感だったり、ICUや病室に1人でいる寂しさなどを感じたり、治療の過程で辛さや痛みを感じます。
 こうした心理的な問題や不安は、保護者だけでは十分にケア出来ない場合もあります。手術の不安などについては、キワニスドール*などを使い、コーディネーターさんや心理士さんの助けを借りて説明してあげるなど、病院側のサポーターの力を上手に借りましょう。
 また、患者会や病院の家族会、移植コーディネーターなどを通して、移植した方とお子さんが会う機会を設けてもらい、お子さんと移植された方、あるいは保護者同士で交流を深めると、移植についてより理解を深めることができるかと思います。

(2)学業・学校の問題

 移植が順調に行った場合、早い場合では2〜3ヶ月ほどで退院できます。移植した年齢・学年にもよりますが、早い子では退院後一ヶ月ほどで登園・登校できることもあるそうです。
 現在病院には院内学級が設置されているところもありますが、院内学級というのは、一度通っていた学校から、学籍を移す必要があります。その事務手続きなどは煩雑で、なおかつ入院期間の2〜3ヶ月のうち、移植前後の一ヶ月ぐらいは院内学級に通えるような体力や体調でもないので、実際に院内学級に在籍する期間はごくごく僅かと言えます。院内学級への転籍は現実的ではないかもしれないとお子さんが学童期に移植した経験者が話しておりました。その為、学業に関し、2〜3ヶ月のブランクが出てくる可能性があります。
 移植に直面するということは、生きるか死ぬかという瀬戸際でもありますので、学業のことまで考える余裕がない可能性があります。しかし、移植は「普通に生きるために受ける治療」ですので、やはり移植後の学業についても、ある程度考えておいた方が良いと思います。学校で個別に勉強に関してフォローしてもらえるのか?できないのであれば、学習塾や家庭教師などで勉強を見てもらえるのか…、考えておくといいかもしれません。

*東京キワニスクラブ:キワニスドールとは

移行期への準備

移行期への準備とは、「子どもが自身の身体と病気を知る」ことだと思います。

 移行期というのは、子どもが成長するにつれ、新たに合併症が生じたり、成人の病態が加わった場合、小児期医療から成人期医療へ移り変わることをいいます。移行期というのは、何歳から何歳までという明確な定義はなく、概ね思春期と重なると考えてよいかと思います。詳しくは、移行期ページをご覧ください。
 移行期はある日を境にという明確な区切りはなく、成長とともに必要性がでてきます。移行期をシームレスに、スムーズにするためにも、家庭では「移行期への準備」を考える必要があります。
 移行期の準備とはいつからか?極端な話、子どもが物心がつく頃から始めても良いと思います。移行期の準備とは「子どもが自身の身体と病気を知る」ことだからです。

【子どもが自身の身体と病気を知るために】

(1)きっかけを上手につかう

 言葉をしゃべれるようになり、パパやママとのお風呂の時間で、自分のお腹の傷と、親のお腹に傷がないという「違い」に気づいた時や、保育園や幼稚園に入り、お着替えや水遊びでお友達との違いに気づいた時など、そういうきっかけがあった時に、簡単な説明を始めることでも良いと思います。

(2)たとえ話をつかう

 肝臓や手術という言葉は、まだ幼児が理解するには難しい場合があります。そういう時は肝臓を「お腹の電池」、手術を「修理」と言い換えて、上手に「たとえ話」を使うといいかもしれません。「お腹の電池が壊れちゃったから、◯◯先生が修理してくれたんだよ。」と主治医のお名前を出すことで、お医者さんと自分の関係を認識させることも一つの方法です。

(3)同じようなお友達をみつける

 病院の家族会や患者会、インターネット上での交流などを通して、実際に同じ疾患のお子さんに会える機会があるのなら、ぜひ交流をお勧めします。それは子ども達に「自分と同じ病気の子がいる」ことで、少しでも孤独感などを減らすことにも繋がります。普段はそれぞれの生活があってなかなか会えなくても、「◯◯ちゃんも同じ病気でがんばってるね」や「今度◯◯くんと外来で会えるかも」などと、お互いの励ましになることもあります。遠方の場合、なかなか同じ病気の子どもや家族と出会えないものですが、今はインターネット上の交流も盛んです。子どもが成長し、インターネットを利用できるころに、同じような病気の人達があつまるインターネット上のグループがあることを伝えるのも良いかと思います。

(4)診察では主治医と会話をさせる

 外来の診察は、主治医と親だけで会話が完結してませんか?病気を持っているのはお子さんです。とある小児科医が移行期の研究で、受け持ちの患者さんに聞いたことがあったのですが、その患者さんは小さい頃「外来が嫌でたまらなかった」と述べていたそうです。理由は「自分のことを先生と親が話しているのを聞いているのが嫌だった」そうです。赤ちゃんの頃から親が子どもを連れて通院するので、最初はどうしても親と主治医の間で会話が終わります。しかし、子どもがしゃべれるようになったら、簡単な会話でもいいので、主治医との会話を親が意識して促しましょう。

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