うんちの色で早期発見
2012年4月から全国すべての母子健康手帳に、便色カードが収載されることになりました。この便色カードは、胆道閉鎖症を始めとする乳幼児肝疾患の早期発見の手がかりとなります。
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便色カードってなに?
松井陽先生(現・国立成育医療研究センター病院長)が考案した松井式便色カードには、1から7までの七段階の新生児のウンチがカラーチャート式に掲載されております。2012年4月から、厚生労働省の通達により、全国すべての母子手帳に便色カードが収載されることになりました。
ご覧のモニターによっては微妙に色の表現が違うので、誤解や混乱、不安を防ぐために、松井式便色カードのホームページでの掲載は控えさせていただいております。
便色カードのメリット・デメリットはなに?
便色カードのメリットとして、
(1)コストが安い:便色カードのコストは一枚20円未満です。比較的安く、普及しやすツールです。
(2)分かりやすい:医師との相談の際に「共通基準」となります。口頭や文字による「白い」「黄色い」ではなく、カラーチャートとなってます。
(3)使いやすい:赤ちゃんの親が便の色と見比べるので、方法が簡単です。母子手帳に挟んでいるので、手帳を持っていれば、どこでも確認できます。(ただし、蛍光灯の下で観察して下さい。)
(4)非侵襲性:赤ちゃんに対して、痛みなどはありません。
どんな方法にも欠点はあります。便色カードの欠点として、
(1)検査ではない:あくまでも「受診を促す」ためのツールであり、「病気の診断をする」検査ではありません。胆道閉鎖症の検査については、胆道閉鎖症のページをご覧ください。
(2)紙の色は変色する:抗紫外線インクや紙を用いて工夫してますが、普段は母子手帳を閉じておくことを勧めます。抗紫外線の効果は一年間とされます。
便色カードについて詳しい説明しているサイトはある?
国立成育医療研究センターのサイトをご覧ください。
2012年4月から母子手帳に収載されました便色カードは、独立行政法人国立成育医療研究センター(以下、成育。)の現病院長・松井陽先生によって、開発されました。成育のホームページに「胆道閉鎖症早期発見のために」という医療関係者向けと保護者向けのページがあります。また、便色カードについても、Q&Aのページが設けられてます。
【参考】国立成育医療研究センター:胆道閉鎖症早期発見のために
【参考】国立成育医療研究センター:便色カードご利用の皆さんのためのQ&A
何番の色から要注意なの?
「4番」から注意していただきたいと私たちは思っております。
1〜3番は小児科医・小児外科医も異存はなく、「要注意な便の色」として医師にも認識されておりますが、「4番」については、医師によっては「正常」と見なす先生もおられます。しかし、「4番」を入れてもらうように私たちが、便色カードの作成者にお願いしました。それは、私たちの「経験上」、「4番」の便の色で胆道閉鎖症が分かった子、「4番」の便の色で合併症の「脳出血」を起こしたお子さんがいた事があるからです。
ただし、「4番」だからと言って、「必ずしも」胆道閉鎖症や乳幼児肝疾患であるとも限りません。この色は「普通に健康な」赤ちゃんでもたまに出すことがあるからです。また、ロタウイルスやノロウイルスに罹り、「一過性」の胆汁排泄障害になるとこのような便の色が出ることも有ります。
「4番」の色のウンチが出た場合、まずは受診してください。そこでロタウイルスやノロウイルスかどうかを診察してもらい、「黄疸」の具合などを診察してもらってください。「大丈夫」と言われても、帰宅後はしばらくは注意してみてください。「4番」の色から一向に濃くならなかったり、どんどん薄くなっていったら、再度受診して「濃くならない」「もっと薄くなった」など、様子の変化を医師にお伝えください。一番お勧めは「便のついたオムツ」を持って受診することです。
また、今までは「灰白色便」としか医学書に書かれていなかったため、「淡黄色便」でも胆道閉鎖症や肝疾患の可能性がある事は意外と「小児科医」には知られてません。現在、少しずつですが、「淡黄色便」という症状も認識されるようになってきました。
私の地域では母子手帳に便色カードって昔からあったけど、どう違うの?
以前は便色カードは、各自治体の裁量で収載されておりました。よって、母子手帳に便色カードがある地域と無い地域がありました。
以前は導入されている自治体は非常に少なかったので、発見が遅れ、合併症が残った子などが後を絶たない状態でした。肝ったママは、そんな「地域格差」があるのはおかしい、また海外では便色カードの導入による早期発見の実績があることから、2009年より厚生労働省に「省令様式」においての便色カード収載を訴えてきました。2012年4月から、厚生労働省の通達により、全国すべての母子手帳に便色カードが収載されることが決まりました。
海外でも使っていると聞いたけど…
海外でも松井式便色カードは、胆道閉鎖症及び乳幼児肝疾患の早期発見のために導入されております。
◎台湾では予防接種のスケジュールとうまく組み合わせ、2004年より早期発見システムが構築されております。
◎スイスでは、便色カードによるマススクリーニングを2009年より導入しております。独・仏・伊・英語の四ヶ国語で書かれ、生後四週目に確認します。また、両親や保健師向けのWebsiteもあるそうです。
台湾の早期発見システムってどんなもの?
台湾の胆道閉鎖症早期発見システムは、予防接種の時期を上手く使っています。台湾のBA児童出生率は、3/10,000です。今まで、早期発見システムがなかった時(2004年)は、生後60日内にBAが発見された確率は72.5%でしたが、2006年の正式導入以来、60日内発見確率は97.1%と効果が得られたそうです。
2006年から台湾大学医学部付属病院と、台湾の国家健康保険局が早期発見推進計画を押し進めています。まずは、6色の便色カラーシートを母子手帳に記載しました。そして、一ヶ月健診、または予防接種の時に医師と便色をチェックするシステムを作りました。
しかし、6色だけでは中間色等で親が判断しづらい事もあり、2008年11月からは、さらに便色カラーチャートを、元の6色から9色に増やしたそうです。
(6色は異常色の便、増やした3色は正常色、 比較出来るようにしている。写真参考)
また、母子手帳の末頁から3ページ目へ、また翌年(2008年)には母子手帳の4~5頁の2ページに渡り、 注意を促しているようです。このシステムは、国際的(国際肝臓学会)にも評価されているそうです。
【注意】台湾の便色カードはあくまでも参考にしてください。
お子様の便色については、2012年度より母子手帳に収載されている便色カードを参考にし、疑問や不安を感じましたら、かかりつけ医にご相談ください。
台湾の母子手帳ではどんな情報があるの?
便色カードと共に、
「一般の新生児黄疸は約2週間程で消えます。」
「母乳性黄疸と間違われやすい。」
「45日内に診断、60日内に手術を行うことが好ましい。」
「うんちの色は、日光または白色蛍光灯の下で観察してください。」
「よくわからない、おかしいかもと思ったら、電話してください。」
「治療が遅れると、2才までに命を落とします。」
との文言があります。
他にも【財団法人児童肝胆疾病防治基金会(TAIWAN CHILDREN LIVER FOUNDATION)】
と言う財団法人があり、理事長には大学病院小児科の医師が、理事にも有名病院の医師が名を連ねております。胆道閉鎖症を始めとする肝臓疾患の患児及び家族のケアやフォローをしているようです。
【参考】財団法人児童肝胆疾病防治基金会 (TAIWAN CHILDREN LIVER FOUNDATION)
便色カードの他に簡単に病気に気づく方法はないの?
赤ちゃんの尿を採取して調べるUSBA検査と言う尿検査があります。
USBA検査は赤ちゃんの尿を採取し、その中に含まれる硫酸抱合型胆汁酸を分析する検査です。こちらの検査のメリットとしては「赤ちゃんの尿を採取するので、痛みなどがない」ことがあげられますが、この検査の欠点として、
(1)コストの問題:分析するのに特別な機器がいるのでコストが高い(便色カードの20倍)
(2)方法の問題:赤ちゃんの尿がうんちと混ざったりしてしまう・女の子は尿が取りづらい
(3)時間の問題:検査結果が出るまでに10〜14日ほどかかる
(4)効果の問題:検査結果が必ずしも正確ではない(擬陽性がある)
(5)親への意識喚起効果が薄い:尿の採取と提出は一度きり(擬陽性があれば後続検査します)なので、徐々に進行した場合、親の病気への認識や警戒意識が薄い。
があります。USBA検査の流れは調べたところ、大抵が「採尿する→10〜14日ほどして結果が出る→疑わしい例は採血する→採血結果が出るまで半日〜1日ほどかかる」というもので、検査から結果が出て専門病院に紹介されるまで14日ほど掛かるというものでした。そして胆道閉鎖症は専門病院で検査をして確定するまで早くても7日ほど掛かるので、このUSBA検査だと、どんなに早くても20日ほどかかり、とってもスムーズに発見したところで生後30日めの発見ということになります。この間の、親の気持ちもずっとモヤモヤすることでしょうし、ビタミンK欠乏症によるリスクを避けられません。
そのため、USBA検査はお金と時間がかかりすぎる割には正確には分からず、早期治療するタイミングがズレてしまうのではないかと考えました。その証拠に、この検査を導入している病院や自治体は、ごくごく僅かで、2013年現在でもあまり普及しておりません。(マススクリーニング検査としては確立できていないということです。)
便色カードとUSBA検査ではどっちが早期発見の効果があるの?
便色カードは、2006年に台湾で正式導入以来、60日内の発見率が97.1%、手術率が94%超と実績がすでにあります。
現在、USBA検査で早期発見出来た症例報告はまだ少なく、便色カードが導入されている海外の実績にはまだ遠く及びません。私たちの目標は「導入コストがかからず、医師にも親にも使いやすく、受診のキッカケを作って早期治療に繋げる」ことであり、ポイントは「早めに受診するきっかけ作り」でしたので、現時点では便色カードがこの目標に一番最適なツールと考えました。
今後、USBA検査の欠点が改善され、安い費用で導入でき、検査結果が出るまでの時間が短縮され、精度も上がれば、便色カードと一緒に用いることで、より正確に、早く病気の赤ちゃんが発見されればいいなと願っております。
情報ライブラリ/学術情報/早期発見関連:USBAによる胆道閉鎖症早期発見の戦略
情報ライブラリ/学術情報/早期発見関連:胆道閉鎖症の早期発見の試み
どうして便色カードを導入する必要があるの?
今までは医師と患者の間で「基準」となる色見本がなく、見落とされることがあったからです。
胆道閉鎖症は原因が不明の赤ちゃんの病気です。原因は不明ですが、身体はいくつかのサインを出してくれます。「黄疸」「淡黄色・灰白色便」「褐色尿」などです。しかし、「黄疸」は「新生児黄疸」や「母乳性黄疸」と間違えられやすく、「便の色」については今までは「基準」もありませんでした。医学の教科書や巷の育児本には「胆道閉鎖症は灰白色便」「白いうんちは危険」とだけしか記載されておらず、またその中で掲載されている便の写真も「真っ白な色」の便しか載せてありませんでした。
発見が遅れてしまった母親たちの話を聞くと、「『(2012年以前の旧バージョンの)母子手帳にはうんちは白くないですか?』って書いてあったけど、「白い」と思わなかった。」とか、「育児本のうんちの色ほど白くはなく、薄っすらと黄色い色はついてたから、大丈夫だと思った」と「便の色」について、「注意すべきサインであった」という認識がなかったのがうかがえました。
しかし、素人の母親が赤ちゃんを連れて受診すると、「これは白っていう」と言われたり、「真っ白ではないから大丈夫」と言われたり、医師によっても反応が様々でした。実際、医師の間でも「胆道閉鎖症の子の便の色」に対する認識は様々で、胆道閉鎖症に詳しい小児外科医が「淡黄色便も胆道閉鎖症の便の一つである」事を知っているかと小児科医に確認したところ、「淡黄色便もと言う認識はなかった」そうです。
こうした行き違いを減らすためにも、医師と患者の間で「基準」となる色見本、すなわち便色カードが必要と考えました。
便色カードが母子手帳に導入されたのはいつ?
最新版の便色カードは、2011年に神奈川県でパイロット事業が行われ、2012年4月より正式に全国の母子手帳に収載されました。
早期発見が出来ないものかと色々調べていくうちに「便色カード」の存在を知りました。これは現国立成育医療研究センターの病院長の松井陽先生が考案したものでした。便の色がカラーチャートで示され、カラーチャートと比べることで異常を発見しようとする試みでした。そして2012年まではごく一部の自治体で独自にこの便色カードが導入されていることも知りました。
また、この松井式便色カードを応用したシステムが海外で構築され、胆道閉鎖症の早期発見が効果的に行われていることを知りました。導入後では、実に94%以上の胆道閉鎖症の子が、60日以内に手術を受けることが出来たのです。
そのため、私たちは「便色カードをすべての母子手帳に収載」されるよう、厚労省・国会議員・地方自治体・医師を主とする医療従事者・マスコミに訴えてきました。活動していく上で、患者家族からの応援や、他の患者会からのサポート、議員や医師らの支援で、厚労省を動かす事が出来、2012年4月より、「全国の母子手帳」に便色カードが載ることが決定致しました。
便色カードによる早期発見は効果が得られているの?
2012年4月の母子手帳から便色カードが収載されました。2013年11月現在、この便色カードによる早期発見の効果はすでに得られています。
私たちの元に寄せられた情報によると、
(1)便色カードの4番に近い便をした赤ちゃんのママが、カードと比べて心配になり、早い段階で受診し、即専門病院へ転院し、手術出来た。
(2)生後間もない新生児健診で赤ちゃんの便が4番だったため、意識の高い小児科医が採血をしたところ、肝機能や胆道系酵素に異常が認められたために、専門の病院へと紹介し、早い症例では30日以内の葛西手術を行うことが出来た。
という情報がありました。年間100例前後と言われる胆道閉鎖症の患者数で、導入されて短期間でこのように成果がでております。症例報告や便色カードによる早期発見の統計も今後、学会などで報告が出てくるのではないかなと思います。
また、今までは中々発見しづらかった代謝性疾患(シトリン欠損症など)や他の肝疾患(新生児肝炎・アラジール症候群など)も、便色カード導入で早めの受診・発覚となっています。便色カードの存在により、母親の意識も高まり、赤ちゃんの便を注意深く観察することによって、消化器系疾患の発見にも繋がってます。これはUSBA検査だけでは得られない成果です。
今後、このように早期発見・早期治療へとつながれば、脳出血などのリスクが減り、より良い予後が期待されます。