新生児一万人に1人の難病
胆道閉鎖症とは新生児一万人に一人の割合で生まれてくる原因不明の病気です。胆汁が流れず、ビタミンKをはじめとする脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、時には頭蓋内出血の合併症などを起こす怖い病気です。外科手術でしか改善する方法はなく、治療が遅れると肝移植になる場合もあります。こちらでは胆道閉鎖症について、情報を載せております。
患者の治療は主治医とよくご相談ください。
肝臓の働きと血管・胆管の関係
肝臓の働きと血管・胆管の関係
肝臓は人の身体の中で一番大きい臓器です。その働きはとても複雑です。役割として、
(1)貯蔵倉庫:鉄や脂肪など栄養分を蓄える
(2)生産工場:胆汁などを分泌し、脂溶性ビタミンなどを身体が吸収しやすいものへとかえる
(3)処理工場:酵素などを分泌し、毒素や老廃物などを代謝し、排泄する
があります。そして、肝臓を取り巻く血管や臓器には以下のような役割をはたしてます。
◆門脈:腸で吸収した栄養分を肝臓へ運ぶ。
◆肝静脈:肝臓で作られた栄養分や処理された毒素を心臓へ運ぶ。
◆肝動脈:肝臓が働くために使う酸素や栄養を肝臓へ運ぶ。
◆総肝管:肝臓で作られた胆汁を胆のうへ運ぶ。
◆胆のう:胆汁を一時的に貯蔵し、腸へ食べ物が流れこむと収縮して、胆汁を流す。
◆胆のう管:胆のうとつながっている胆汁の通り道。
◆胆管:胆のうで溜めている胆汁を腸へ運ぶ。
◆胆汁:肝臓から分泌され、一旦胆のうへ溜められる。食べ物が入ると胆のうから腸へ流れ込み、食べ物と混じって、脂溶性ビタミンなどを吸収しやすくする。
肝臓はとても重要な臓器です。しかし、胆道閉鎖症や代謝性疾患、肝炎などになると、肝細胞が破壊され、肝機能障害が起きます。肝機能障害が進むと肝硬変となり、やがて肝不全となり、命に関わります。
胆汁ってどんな働きするの?
胆汁ってどんな働きするの?
胆汁は肝臓で作られ、胆管を通って胆のうに貯まり、食事をすると胆のうが収縮して、腸へ胆汁が流されます。胆汁は食物の中の「脂肪」を分配し、吸収しやすくするはたらきがあります。胆汁は「胆汁酸」と「胆汁色素」に分けられます。
「胆汁酸」は脂肪を小腸で吸収されやすいように働きかけます。そしてこの胆汁酸は小腸でまた吸収され、肝臓に戻されます。
「胆汁色素」は破壊された赤血球から出来たヘモグロビンのうち「ヘム」という成分が肝臓でビリルビンに変化します。このビリルビンはうんちの色にもなり、便によって排泄されます。
肝臓の病気などで胆汁が排出されないと、肝臓の中に溜まっていき(うっ滞)、やがて肝臓が硬くなってしまいます。これを胆汁うっ滞性肝硬変といいます。また、腸へ流れる胆汁が不十分だと、腸内の食物の脂肪分が体内にうまく吸収できなくなります。そうなると「脂溶性ビタミンの吸収障害」になり、ビタミンD不足による骨粗鬆症やくる病、ビタミンK欠乏性出血症になる恐れがあります。
【参考】gooヘルスケア:乳児ビタミンK欠乏性出血症
【もっと詳しく知りたい方は▼】
肝ったママじゃーなる:胆汁のはたらき
胆道閉鎖症とは
胆道閉鎖症とは
胆道閉鎖症とは、肝臓から胆汁を腸へ流す「胆管」が何らかの原因で塞がれてしまい、胆汁が流れなくなる病気です。日本では、新生児一万人に一人の確率で、毎年100名ほどの患児が生まれてきます。
胆汁が流れなくなるので、胆汁が肝臓の中に溜まってしまいます。これを「胆汁うっ滞」といいます。胆汁がたくさん溜まると、肝臓の細胞(肝細胞)が壊されてしまい、肝機能障害となります。
肝機能障害が始まってしまうと、元には戻れません。何もせずにいると、病気が進行してしまい、肝臓が硬くなる「肝硬変」となります。肝硬変が悪化してしまうと、「肝不全」となり、命に関わります。以前は、胆道閉鎖症の赤ちゃんは一才まで生きられないと言われましたが、現在では「葛西手術」と「肝臓移植」の治療方法があります。
▲出典:小児外科学会サイトより
胆道閉鎖症は閉鎖する状態によっていくつかの型(タイプ)に分けられます。一番多いのはIII型です。タイプによって、手術の予後などが違うことはないようです。
どんな症状が出るの?<三大主要症状>
どんな症状が出るの?
胆道閉鎖症は大きく、三つの症状が出ることがあります。すべてが同時に出るお子さんもおられれば、一つや二つしか出ないお子さんもおられます。また病気の進行状況は人それぞれなので、症状が出る時期もまちまちです。
(1)薄い色のうんち
胆道閉鎖症は胆汁が腸に流れない、もしくは流れにくくなる病気です。胆汁はうんちの色の元でもあり、腸に流れないとうんちの色が薄くなります。医療サイトや育児書には「灰白色便」、または「白っぽいうんち」と表されることが多いのですが、実際に患児の親が目にしたうんちの色は、薄い黄色・薄い緑色・レモン色・メロンパンの色・クリーム色・薄いうぐいす色など、「薄い色」と言い表されることが多く、必ずしも「白い」色ではありません。
また、今までは医療従事者が問診の際に聞く「うんちは白っぽいですか?」の「白」も、親が考えている「白」も、「色としての共通基準」がありませんでした。2012年4月からは、母子手帳に便色カードが収載されたので、医療従事者と保護者の間で、共通基準の色が示され、より早く病気の発見に繋がることに期待しております。
(2)黄疸がでる
胆汁が流れないため、ビリルビンが体外へ排出されず、血液の中に溶け込み、体内を循環します。そのため、皮膚に黄疸が出たり、白目の部分が黄色く(黄染)なります。しかし、新生児には新生児黄疸と母乳性黄疸があり、胆道閉鎖症によって引き起こされる「病的黄疸」と区別が付きにくいため、黄疸が出ていても、見落とされることがよくあります。新生児黄疸は生後4〜5日をピークに、7〜10日で引きます。母乳性黄疸の場合は、明るめの黄色をしており、大抵母乳をとめたり、成長とともに引いていきます。生後一旦引いた黄疸が再度出てきたり、どんどん強くなって黒ずんできたりしたら、かかりつけ医にご相談ください。
(3)濃い色のおしっこがでる
胆汁が流れず、うんちよりビリルビンが体外へ排出されないため、尿から体外へ排出されるようになります。そのため、一般の赤ちゃんの尿は無色透明ですが、胆道閉鎖症や肝疾患の赤ちゃんは、尿が濃い黄色や茶色、またはウーロン茶の色みたいに色がついたり、濃くなったりします。薄い色のうんちや強い黄疸とともに、尿の色も濃くなってきた場合は、一刻も早くかかりつけ医を受診してください。(母乳性黄疸が出ている赤ちゃんが、黄褐色尿を出すことはないそうです。)
三大症状の他にはどんな症状があったの?
三大主要症状の他にはどんな症状があったの?
(1)淡黄色・灰白色便(2)黄疸(3)褐色尿のほかにも、胆道閉鎖症の赤ちゃんには、以下のような症状が見られることが有ります。個人差がありますので、全てが出る赤ちゃんもいれば、あまり症状のはっきりしない赤ちゃんもいます。注意して赤ちゃんを観察し、不安に感じたら、小児科・小児外科を受診しましょう。
白目の部分が黄色い。
白目の部分は普通の赤ちゃんは青白い色をしております。胆汁が流れないと、ビリルビンが血液内に入って体内を回るため、白眼のところが黄色くなることがあります。
お腹が異常に大きい、触ると硬い感じがする。
胆道閉鎖症の赤ちゃんの母親からの体験によりますと、「カエル腹だった」「お腹が張っていて、手足が細かった」という話がありました。肝臓が腫れているのか、ガスが溜まっているのか、医師に診てもらいましょう。
顔や体を掻く、皮膚の湿疹やキズが治らない
胆汁が血液内に流れだすと、胆汁の成分の一つである胆汁酸によって痒みが引き起こされる…という説があります。赤ちゃんがやたらと身体中引っ掻き回し、なおかつ引っかき傷がなかなか治らない場合は、胆汁酸によるカユミか、アトピーによるものか医師に相談をしましょう。
また、予防接種などで、注射をした傷口から血の流れがなかなか止まらない時も、念の為に注射した医師にみせてください。肝臓に病気がある場合、凝固因子が不足し、傷口の血液が固まりにくくなることがあります。
ミルク/母乳をよく戻す
胆道閉鎖症の赤ちゃんの母親からの体験によりますと、げっぷが上手に出来なかったり、母乳やミルクをよく戻すことがあったそうです。中には勢い良く吐いた赤ちゃんもいるそうで、肝臓が肥大して胃を圧迫している可能性もあります。
おっぱい、ミルクを沢山飲むので、一見健康に見える
胆道閉鎖症の赤ちゃんは、胆汁の分泌が不十分なため、身体が十分に脂肪を吸収することができません。母乳やミルクを沢山飲んでいても栄養の吸収が悪いため、体重の増加が少ないことがあります(体重増加不良)。
どんな検査をするの?
どんな検査をするの?
(1)採血
採血によって、主に肝機能・ビリルビンの数値を検査します。ビリルビンとは、体内で役目を終えた赤血球が死んで、赤血球の中のヘモグロビンが分解された後の廃棄物です。ビリルビンの数値(T-Bil , D-Bil)の数値が高かったり、肝機能(GOT/GPT、もしくはAST/ALT)や胆道系酵素(γ−GTP)などが高いと、肝臓や胆道系に問題がある可能性が高いです。
赤ちゃんの血管はとても細いので、小児科医でも採血には時間がかかることもあります。
【参考】Wikipedia:ビリルビン
【参考】乳児黄疸ネット:直接ビリルビン
(2)レントゲン
レントゲンで、胆のうや胆管の存在を確かめます。新生児の場合は、レントゲンでは見えづらい場合もあります。その場合はエコーや、CTでより詳しく検査します。
(3)エコー(超音波)
エコーで胆のうや、胆管の存在を確認します。エコー自体痛みはありませんが、赤ちゃんの場合、丁寧に見るために時間がかかります。胆のうがあった場合はそれが収縮をしているか、哺育後に再度確認することもあります。胆のうがなかったり、萎縮していたりすると、確認できないため病気が疑われます。
(4)CT(コンピュータ断層撮影)
放射線などを用いて、読み取りの機械で体を走査し、その結果をコンピュータで視覚的に分析する検査です。X線を使ったり、MRI(核磁気共鳴)など、用いる技術によって呼び方はいろいろあります。
(5)胆道造影シンチグラフィ(胆道シンチグラム)
放射性物質を体内に投与し、時間を追って、造影していく検査のことです。主に腫瘍や、臓器を調べる時に使う検査です。胆道造影では、肝臓・胆道で吸収される放射性物質を注射し、その放射性物質を機械で時間を追って検出します。検査中は動いてはいけないので、赤ちゃんは大抵麻酔や睡眠剤を投与され、安静にして検査を受けます。これによって、胆のうや胆道の存在や胆汁の排出がある程度確認できる場合もあります。
(6)十二指腸液検査
鼻からカテーテルを十二指腸まで通し、 腸液を採取して、胆汁が分泌されているかを検査します。そのため、検査前と検査中は絶食します。
(7)肝生検
肝臓に針を刺して組織や細胞を採取したり、手術中に肝臓を少し削って、顕微鏡で細かく観察する検査です。血液検査や超音波検査、CT検査とは違い、肝組織を直接観察できるので、最も確実な検査法の一つとされています。ただ、リスクも伴う検査で、熟練した病理医がいないと出来ない検査なので、赤ちゃんにはあまりされません。手術中にする事が多いです。
その他に、病院によっては、胆道閉鎖症と他の疾患を見極める(鑑別)ために心電図などをとることもあります。
これらの検査は、病院の検査室の混み具合にもよりますが、大体5〜7日ほどかかります。また、これらの検査でもはっきりと胆道閉鎖症と確定出来ない場合は開腹して、直接術中胆道造影などを行って確認することがあります。これで胆道閉鎖症と確定したら、肝臓と腸をつなげる葛西手術(肝門部空腸吻合術)を行います。
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肝ったママじゃーなる:胆道閉鎖症の検査
うんちが白っぽくなるって聞いたけど…
うんちが白っぽくなるって聞いたけど…
胆道閉鎖症は、胆汁が腸までうまく流れないので、色の元となる胆汁のシャワーを浴びられません。そうすると、便の色が「薄く」なります。よく、育児雑誌での赤ちゃんの病気特集では、「灰白色の便」や「白い便」と書かれてますが、胆道閉鎖症の子どもの親の経験から言わせてもらいますと、「厳密には」不正確です。
実際閉鎖の状態も、肝内や肝外で完全に閉鎖している子もいれば、狭くなっても微かに胆汁が流れている子もいます。また、胆管が閉鎖していく時期は赤ちゃんそれぞれで、生後すぐに閉じる子もいれば、徐々に閉じていく子もいます。そのため、色のない「灰白色便」や「白っぽい便」ではなく、薄っすらと色がついている便のことが多かったり、徐々にうんちの色が薄くなっていく子どもも多いのです。
どのような色の便が異常なのか?母子手帳をお持ちの方は、収載されている便色カードを参考にして下さい。うんちの色が便色カードの4番より薄い場合は、うんちのついたオムツを持って、小児科/小児外科を受診しましょう。
胆道閉鎖症の便は「真っ白」じゃないの?
胆道閉鎖症の便は「真っ白」じゃないの?
薄っすらと色がついていることがあります。
上の図に示すように、胆道閉鎖症は胆汁の通り道である胆道が閉鎖する「形態」と「時期」が人それぞれです。
(1)閉鎖の形態が人それぞれ
胆道閉鎖症には、開腹の結果、胆道の閉鎖具合によって色んなパターンに分類されます。肝臓の内部にある胆管(肝内胆管)が閉鎖している赤ちゃんもいれば、胆のうなどが萎縮はしているが、僅かながらも胆管が通っている赤ちゃんもいます。完全に閉鎖していれば胆汁が流れませんが、閉鎖しかかっている(通り道が細いくなっている)状態であれば、僅かながらも胆汁は流れていますので、便には「薄っすら」と色が付きます。そのため、胆道閉鎖症=真っ白な便というのではなく、胆道閉鎖症=淡黄色便・クリーム色・レモンイエロー・グレー・灰白色と、薄っすらと色が付いている赤ちゃんの方が多いのです。
(2)閉鎖の時期が人それぞれ
生まれてすぐ閉鎖する赤ちゃんもいますが、少しずつ病気が進行して、徐々に胆道が閉じていく赤ちゃんもいます。徐々に閉じていく赤ちゃんは、僅かながらも胆汁が流れていることも有り、うんちの色が「徐々に薄くなっていきます。」その為、うんちの色が「ある日突然に」真っ白になるのではなく、少しずつ色が薄くなる赤ちゃんもいます。
胆道閉鎖症の母親が見た「うんちの色」
胆道閉鎖症の母親が見た「うんちの色」
胆道閉鎖症の子うんちの色は、かならずしも「白っぽい便」とは限りません。胆道閉鎖症のお子さんを持つ母親たちが実際に見た感じを「わかりやすいたとえで教えて」とお願いして、寄せてもらった体験談です。(プライバシー保護の観点から匿名にさせていただいております)
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(1)S.Kさん:
娘のうんちはクリームチーズを固まらせる前の、カッテージチーズの様なポロポロの状態に、薄い黄色の液体を混ぜたような油っぽい感じのウンチでした
(2)S.Mさん:
うちは折り紙の黄色から始まり、だんだん卵焼きとかプリンみたいな色になりました。顆粒便→つぶつぶと水分が別々に出てくる感じです。音がぶりぶりと豪快になってました。あと、お風呂でうんちをもらしたとき、うんちと一緒に、油の膜も浮きました。うんちの感じはおぼろ豆腐ですね 。わたしは気付いたのが生後20日くらいでした。 1ヶ月検診前日には真っ白になりましたが、そのあとまた色がついたりしました。 油っぽいうんちだから、普通のうんちよりこびりつかなくて拭きやすい、と思いました。
(3)chiさん:
うちは、黄緑色でした。たとえて言うなら、抹茶に生クリームを入れたような色、 うぐいす餅とメロンパンの色を混ぜたような色でした 。回数は、1日に8回位してました。 うんちの感じはお豆腐みたいな感じでした。ちょうど、木綿豆腐を水切りした時のような形です。
(4)Kumiさん:
うちもメロンパンの色でした。 形状は、最初は赤ちゃんのドロドロウンチだったのが、だんだんおからみたいな感じになって行った感じでした。 でも油っぽいみたいな。。。 やはりミルクの飲みが凄くて、よく吐き戻しもしていました。今思うと、やたらミルクを欲しがり、泣いていた気がします。
(5)bittyさん:
うちも皆さんが表現してるように最終的な色はポロポロ状のチーズみたいな薄い黄色い豆腐みたいな感じでした。→脳出血する数日前は毎日のようにこんな感じでした。
最初の頃は確かに濃い緑のウンチや濃い黄色でした 。それがいつからか徐々に薄くなりました 。
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上の方達の体験談を読んでも、いくつか共通する点が見られます。
(1)うんちの色:薄い黄色・メロンパンの色・プリンの色…。真っ白や白っぽいの他にもこんな色も要注意なのです。
(2)うんちの形:脂っぽい、油の膜がある…。おからみたいな、豆腐みたいな感じ…。表面がテカテカしてる。これは胆汁が流れず、脂肪を分解しないからです。
(3)色の変化:ある日突然変わるものではなく、じょじょに変わる場合が多いです。じょじょに変わるので、母親の目が慣れてしまい、おかしいと気づかない場合もあります。
もし、お子さんのウンチの色が上に書いてあるような状態だった場合、うんちのついたおむつを持って、かかりつけの小児科を受診してください。
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どうしたら早期発見できるの?
どうしたら早期発見できるの?
この病気は黄疸・淡黄色便または灰白色便・ビリルビン尿など、目に見える症状が出ますが、母乳性黄疸、乳児嘔吐下痢症(ロタウイルス・ノロウイルス)などと間違えられやすいのも事実です。十数年前に松井陽医師(現・国立成育医療研究センター病院長)が、便色カラーチャートを載せたカード(便色カード)を考案し、一部の自治体や海外で導入され、一定の成果を上げました。その後、便色カードに改良が加えられ、2012年度より日本全国でも母子手帳へ収載され、医療従事者と保護者がカードを用いて便の色を観察することによって、早期発見されるようになりました。
また、ほかにもUSBA検査と言う、新生児の尿を採取し、分析する検査もありますが、検査結果まで出るのに時間が1週間〜10日間ほどかかるのと、擬陽性の場合もあり、まだ検査としての成果は確定されておらず、導入している自治体も少ないのが現状です。
便色カードは導入コストが比較的安価で、またツールとして一般の保護者でも使用できること、便色を観察することによって肝疾患のみならず、消化器系疾患への注意喚起の効果もあることから、現在において、胆道閉鎖症を早期発見する最も有効な手段であると私たちは思います。
情報ライブラリ/学術情報/早期発見関連:胆道閉鎖症を早期発見するための便カラーカード法
情報ライブラリ/学術情報/早期発見関連:USBAによる胆道閉鎖症早期発見の戦略
【参考】病院の検査の基礎知識:尿ビリルビン、ウロビリノーゲンとは?
生後60日内に手術した方がいいと聞いたけど…
生後60日内に手術した方がいいと聞いたけど…
胆道閉鎖症は、一般的には生後60日以内に葛西手術をした方がいいと言われます。日にちが経ってしまうと、うっ滞した胆汁によって肝臓が痛み、線維化を起こした後に肝硬変へと病気が進行します。また、胆道閉鎖症は病気が進行すると「ビタミンK欠乏症」になる可能性があり、脳出血などのリスクが上がります。ですので、早期に発見することがとても重要です。
しかし、胆道閉鎖症は生後すぐに胆道が閉鎖してしまう赤ちゃんもいれば、生後しばらくしてから胆道が少しずつ閉鎖してしまう赤ちゃんもいて、人それぞれです。(それ故に、今は「先天性」とは言われません)生後60日はあくまでも目安です。
また、いろいろな検査をした上でも、「胆道閉鎖症とはハッキリ断定できない」事が多いのがこの病気の難しいところです。便の色が薄いからと言って、すぐに手術というわけではありません。便の色が薄くなる病気には「乳児肝炎」「アラジール症候群」「シトリン欠損症」など様々な病気があります。これらの病気には、手術ではなく、特殊ミルクを飲んだり、お薬で胆汁の排泄を促したり、経過観察で改善する場合もあります。ですので、まずは医師にかかり、病気かどうか診察・検査してもらうことが重要です。
黄疸は「新生児黄疸」や「母乳性黄疸」じゃないの?
黄疸は「新生児黄疸」や「母乳性黄疸」じゃないの?
胆道閉鎖症の子どもは皮膚の色が黄色くなったり、白目の部分が黄色味を帯びてくる「黄疸」が出ます。しかし、難しいのは、この胆道閉鎖症による「黄疸」は、「新生児黄疸」や「母乳性黄疸」と見分けがつきにくいのです。
「新生児黄疸」や「母乳性黄疸」とはなんでしょうか?
赤ちゃんがまだ母親の体内にいた時、胎盤を通して酸素を取り込むために沢山の赤血球を必要とします。(注:赤血球=酸素を運ぶ働きがあります。)しかし、赤ちゃんが産まれて、自力で呼吸を始めると、肺から酸素を取り込めるようになるので、それほど赤血球は必要なく、余分な赤血球は破壊されます。そして赤血球が破壊される時に「ビリルビン」が出ますが、肝臓の働きがまだ未熟なので排出されず、血液の中に溶けこみ、皮膚が黄色味をおびて、黄疸となります。これが「新生児黄疸」と呼ばれるものです。これは生後2日~4日にかけて見られます。大抵の赤ちゃんは、肝臓が動くようになり、徐々に黄疸が引きますが、あまりに黄疸の数値が高いと、核黄疸といって、脳に損傷をあたえるので、光線療法や交換輸血で治療をします。
「母乳性黄疸」は「新生児黄疸」とはまた別のもので、母乳を飲んでいる赤ちゃんに出ます。母乳の成分に含まれる脂肪酸には、ビリルビンを水溶性に変える酵素の働きを抑制する働きがあります。(ビリルビンを水溶性に変えることによって尿から体外へ排出します。)その為、母乳を飲んでいる子は、生後一週間から一ヶ月にかけて、黄疸が出やすくなっています。長引くときは生後二ヶ月まで黄疸が続く場合もあります。これが「母乳性黄疸」です。母乳性黄疸は特に治療の必要はないのですが、胆道閉鎖症や肝臓疾患からくる病的黄疸となかなか見分けがつきにくいのです。胆道閉鎖症の発見が遅れる原因の一つに、「病的黄疸を『母乳性黄疸』と間違われた」ことがよくあげられます。
だからと言って、「母乳が良くない」というわけではありません。しかし、一部では「母乳至上主義」にも近い考えがあり、ミルクを真っ向から否定する人もいます。しかし、体調などの関係で母乳の出が悪い方も中にはおられます。母乳で哺乳しないと母親失格などと思い込む必要はないと思います。
母乳は確かに栄養が良いのですが、ビタミンKにつきましては、母乳哺育ですと、不足する可能性があります。その為、現在ではビタミンK2シロップを生後二回、一ヶ月健診の時に一回、計三回赤ちゃんに投与しています。
「新生児黄疸」は生後4〜5日をピークに、生後7〜10日には引いていきます。「母乳性黄疸」の場合は、間接ビリルビンによる黄染なので、レモンのような明るい黄色に見えます。
【参考】乳児黄疸ネット:黄疸の乳児を見たら
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肝ったママじゃーなる:赤ちゃんの黄疸
どうやって「母乳性黄疸」と「病的黄疸」を区別するの?
どうやって「母乳性黄疸」と「病的黄疸」を区別するの?
区別するには、採血するのが最もはやい方法です。
採血して、直接ビリルビン(D-Bil)の数値を測れば、病的黄疸か母乳性黄疸かがある程度わかります。直接ビリルビンの数値が高いと、肝臓・胆道系疾患が考えられるからです。(ちなみに産院などで、新生児のおでこにつけて黄疸を測るのは総合ビリルビン(T-bil)ですので、それだけでは、黄疸が母乳性黄疸なのか、病的黄疸なのかは区別できません。)母乳性黄疸ではないと分かれば、胆道閉鎖症や新生児肝炎等の肝疾患を疑うので、早急に小児外科のある総合病院/大学病院に搬送し、精密検査をうけます。
ただ、残念ながら生後まもない赤ちゃんを採血してくれる医師はなかなかおられません。黄疸が長引き、それが不安で小児科医を受診しても、大抵は「母乳性黄疸です」と言われて、「もう少し様子を見ましょう。」と帰されることが多いと思います。肝ったママは、黄疸が長引き、ウンチの色が薄いと感じた場合は、「ウンチのついたオムツを持って受診してください」と呼びかけてます。黄疸だけでは「母乳性黄疸」と判断されることが多いですが、これに「ウンチの色」が怪しい?となれば、小児科医は「胆道閉鎖症・新生児肝炎」を念頭に診察してくださる可能性が高まるからです。また、気になる方は、肝ったママのリーフレット(チェック項目付き)を持って小児科医を受診してください。
また、同じ黄疸でも「母乳性黄疸」は明るめの黄色、「病的黄疸」は黒ずんだ黄色やくすんだ黄褐色になります。蛍光灯などの下で赤ちゃんの皮膚を観察してみてください。
健康な赤ちゃんは、赤みを帯びた白い肌です。だから「赤ちゃん」と言うのですね(^^)黄疸は毎日見慣れてくると、なかなかわかりにくいのですが、産院での健診の時などに、他の赤ちゃんと肌の色を見比べてみるのもいいかもしれません。
【参考】乳児黄疸ネット:黄疸の乳児を見たら
【参考】乳児黄疸ネット:直接ビリルビン
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肝ったママじゃーなる:赤ちゃんの黄疸
目やおしっこはどんな色になるの?
目やおしっこはどんな色になるの?
黄疸は肌の色だけに出るわけではありません。黄疸の色のもととなるビリルビンが血液によって体内を駆けまわるので、白目の部分が黄色くなること(黄染)があります。
また、尿にビリルビンが排出されるので、尿が黄色くなることもあります。オムツなどに付いた尿が時間が経過した後、うっすらと茶色っぽくなっていたり、黄色くなっていた場合は注意が必要です。母乳性黄疸の赤ちゃんが黄色い尿を出すことはないそうです。黄疸があり、尿も黄色い場合は要注意です。(注:赤ちゃんの尿はほぼ無色透明です。ただし、脱水気味の時は尿の色が濃くなりますのでご注意下さい。また尿の色で代謝疾患・腎臓疾患が分かる時があります。おかしいと思った場合はかかりつけの小児科医に相談してください。)
【参考】乳児黄疸ネット:黄疸の乳児を見たら
【参考】病院の検査の基礎知識:尿ビリルビン、ウロビリノーゲンとは?
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肝ったママじゃーなる:赤ちゃんの黄疸
手遅れになるとどんな合併症がおこるの?
手遅れになるとどんな合併症がおこるの?
胆道閉鎖症は、胆汁がうまく腸まで流れないので、脂溶性ビタミンの吸収が困難になります。「脂溶性ビタミン吸収障害」になると、ビタミンA.D.E.Kなどが吸収されなくなります。ビタミンDの吸収が少ないと、骨などがうまく形成されず、骨粗鬆症やくる病のようになります。また、ビタミンKの吸収が少ないと、ビタミンK欠乏性出血症になる恐れがあり、内出血を起こしやすくなります。
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肝ったママじゃーなる:怖い合併症
ビタミンKが欠乏するとどうなるの?
ビタミンKが欠乏するとどうなるの?
ビタミンKが不足すると、どういったことが起きるのでしょうか?一番怖いのは「内出血」です。特に赤ちゃんの場合は脳の血管が細いので、脳内出血のリスクが高まります。また、慢性的に不足するとカルシウムが定着しにくいので、骨がもろくなり骨粗鬆症や骨折の危険性があります。一般的に、赤ちゃんには母乳での哺育が望ましいとされますが、母乳の中にはビタミンKは不足しがちで、また、産まれたばかりの赤ちゃんの腸内細菌は、まだ必要なビタミンKを充分に作り出せない場合もあるため、現在日本では、出生後から一ヶ月健診にかけて、経口によるビタミンK2シロップの三回投与を国で義務付けられております。粉ミルクには人工的にビタミンKが配合されているので、完全母乳哺育の赤ちゃんよりはビタミンKの不足の心配は少ないと言われます。
2009年に赤ちゃんにK2シロップを投与していないことにより、脳内出血をして亡くなった事件がおこりました。(山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故などで検索すれば、内容がわかります)こちらの事件自体に関しましては、肝ったママの活動とは関係有りませんので、詳しくは述べませんが、K2シロップ未投与によるリスクが実はとても高いことだということを知ってもらいたいと思います。
【参考】gooヘルスケア:乳児ビタミンK欠乏性出血症
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肝ったママじゃーなる:怖い合併症
今まで普通の便だったのに、急に白くなった!
今まで普通の便だったのに、急に白くなった!
胆道閉鎖症は、生後すぐ、もしくは生後から少しずつ進行する病気なので、昨日まで普通だった赤ちゃんの便が、急に真っ白になった場合は、「ロタウイルス」や「ノロウイルス」によって引き起こされる、「乳幼児嘔吐下痢症」の可能性があります。これらのウィルスは感染すると、胆道に悪さをして、「一過性胆汁排泄障害」を引き起こすので、患者(大人も子どもも)は便の色が白・あるいはグレーになります。同時に激しい嘔吐や白い便・下痢が引き起こされる病気です。胆道閉鎖症とは違いますが、こちらも急激に脱水等を引き起こし、赤ちゃんの場合は重症化ますので、早急に小児科医を受診してください。
赤ちゃんの便がずっと山吹色や濃い黄色だったのが、突然白くなった場合は、ウィルス感染か胃腸炎の可能性があります。その後、症状が治れば、便の色も元通りに戻ります。胆道閉鎖症の場合は、手術をしないと胆汁が流れないので、色が濃くなることはありません。何れにしても、便の色が薄かったり、白くなった場合は、小児科医に見てもらいましょう。
また、胆道閉鎖症が生後半年以降の子に「ある日急に発症」することはほぼありません。生後4ヶ月までに何らか(黄疸・灰白色/淡黄色便・褐色尿など)の症状がでると言われております。
【参考】NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会:ロタウイルス感染症
母乳やミルクを沢山飲むのに、どうして体重が増えないの?
胆道閉鎖症の赤ちゃんは母乳やミルクを沢山飲むのに、どうして体重が増えないの?
胆道閉鎖症の場合、胆汁が十分に腸まで流れません。胆汁は脂肪分を溶かして、身体に吸収されやすくする役割があります。胆汁が不十分で、母乳やミルクの中に含まれる脂肪分が身体に取り込まれないため、母乳やミルクをよく飲む割りには、体重の増えがあまりよくないのはそのためです。また、脂肪が吸収されないため、便で排泄されてしまうので、胆道閉鎖症の赤ちゃんのうんちはテカテカと脂っこいことがあります。
胆道閉鎖症が心配、受診の時何に注意すればいいの?
胆道閉鎖症が心配、受診の時何に注意すればいいの?
もし、お子さんの「便の色が薄い」「黄疸がひどいみたい」「おしっこが濃い」など、気になる症状が出た時は、「うんちのついたオムツ」を持って小児科を受診してください。2012年4月以降の母子手帳をお持ちの方は、母子手帳内の便色カードと見比べて、「便の色がうすい」こと、その他気づいた症状などを医師に伝えて下さい。たとえ、一ヶ月健診の時は異常がなくても、その後変化があった場合は、次回の健診まで待たずに受診することをお勧めします。肝ったママ式チェックシートをダウンロードして当てはまる症状にチェックし、「うんちのついたオムツ」とチェックシートを持って、小児科を受診してください。
どんな病院を受診した方がいいの?
どんな病院を受診した方がいいの?
胆道閉鎖症は、「小児外科」で治療する病気です。一番の理想は小児外科で診てもらうことですが、小児外科は大抵大学病院か総合病院にしかありません。大学病院や総合病院で出産していれば、主治医に診てもらい、転科紹介してもらえますが、紹介状なしに直接小児外科を受診すると、大抵「初診料」を取られます。(5,000円〜幅はあります)受診のおすすめとしては、小児外科>小児外科がある総合病院・大学病院の小児科>小児科クリニックの順です。小児外科のある病院は、日本小児外科学会のホームページで一部リンク紹介してます。
【参考】日本小児外科学会:小児外科専門医のいる病院
追記:胆道閉鎖症研究会のホームページができました。胆道閉鎖症研究会の会員となっている医療施設リストも参考にしてください。
【参考】胆道閉鎖症研究会:施設会員名簿
胆道閉鎖症はなぜ発覚・診断しにくいの?
胆道閉鎖症はなぜ発覚・診断しにくいの?
初めて子育てをする母親にとっては、黄疸はどの状態が異常なのか?便の色は何色がおかしいのか?まったくわからないことばかりです。巷にある育児雑誌に赤ちゃんの病気についての説明等はありますが、正直2~3時間置きの授乳、その合間のオムツ替え等々すべてが初めての母親には、あまり育児雑誌をのんびり読む余裕はないと思います。そうすると「一ヶ月健診」というのは、一つの重要な機会だと思います。しかし、一ヶ月健診の頃はまだ母乳性黄疸が出ている時期であり、完全ミルクでもない限り、仮に赤ちゃんに黄疸があったとしても、ほとんどの小児科医は「母乳性黄疸でしょう」と言う診断を下すと思います。そして便の色が胆道閉鎖症を疑われるような薄い色であっても、「白」ではないということで見落とされる可能性もあります。親もそんなものだと思うと、安心してしまいます。
そして次の「三ヶ月健診(もしくは四ヶ月健診)」まで、よほどの事がない限りは、親も小児科医に赤ちゃんを見せることはほぼ皆無と言っていいでしょう。しかし、この「三ヶ月健診(もしくは四ヶ月健診)」までの間に胆道閉鎖症のお子さんは、胆道が閉鎖していったり、胆汁が腸まで排泄出来ず、便の色が薄くなっていったり、皮膚が日に日に黄色くなり、白目の部分まで黄色くなったりします。ところが「毎日観ている母親」には、そういう変化を「目の慣れ」が邪魔をして見逃してしまう…そういう可能性も非常に高いです。
では、おかしいと思い、病院に連れて行って、すぐに「胆道閉鎖症」との診断が下るのでしょうか?残念ながらそれはありません。大抵の方は、産まれたばかりの赤ちゃんの様子が気になると、産まれた産科が入っている総合病院の小児科や、近所の小児科クリニックに行かれると思います。小児科医が「胆道閉鎖症」について詳しい先生や臨床経験のある先生なら、黄疸の状態、便の色を観察すると思います。
しかし、この時期は「母乳性黄疸」の出る時期でもあり、また便の色についても、医師と親の間で共通の「基準」となる色がなく、難病ゆえ、臨床経験のない医師が多く、医学書の「灰白色便」が症状だと思い込み、薄い黄色や薄い緑色の便を医師も見逃してしまう可能性もあります。胆道閉鎖症は「小児外科」で治療する病気なので、町の「小児科医」で見落とされる可能性が高いのです。その為に、医師と親の共通基準である「色」を便色カードによって補おうとして、2012年度から便色カードの導入が決められました。
発覚しづらく、そして診断しにくい、これがこの病気の落とし穴です。
【もっと詳しく知りたい方は▼】
肝ったママじゃーなる:胆道閉鎖症の落とし穴