お子様のご入園・ご入学・ご進級おめでとうございます。
生後間もなく病気とわかり、いろいろとご不安もありましたが、保育園・幼稚園・小学校などに入ることで、嬉しい反面、いろいろとご不安もあるかと思います。
教職員へは、病気のことをどのように話したらいいのか?何を注意してもらわないといけないのか?人それぞれではありますが、共通して教職員へこれだけは知ってもらい病気のことや、これだけは注意してほしいことを小冊子にまとめました。
小冊子には、ほかにも個別の状態・症状に応じて記入できるメモ欄や、緊急連絡先などが記入できるようになっております。ダウンロードして、A4サイズの紙にプリントアウトしてご利用ください。
お子様が楽しい集団生活を送れるよう、祈っております。
▼また、小冊子についての補足説明などは下の項目をご覧ください。
◇Facebookノート:【教職員への資料(肝臓移植編):おやつ・給食について】補足説明(柑橘類)NEW
◇Facebookノート:【教職員への資料(肝臓移植編):おやつ・給食について】補足説明(柑橘類)
お薬というものは、口から服用したり(経口投与)、皮膚に塗ったり(経皮投与)、点滴や注射(静脈投与)で身体の中に取り込まれると、身体のいろいろな部分に作用します。その際に目的に沿った作用を「主作用」、目的とは違う作用を「副作用」といいます。どんなお薬でも「主作用」と「副作用」があります。同じお薬でも、この病気に対しての主作用が、別の病気では副作用であったりすることもあります。また、その作用が効果として出る量は、大人と子どもでも違いますし、治療する目的に応じて、量が変わってくることがあります。お薬がきちんと本来の目的として効果を出すには、医師による診察を受けて、決められた量を決められた時間(間隔)で服用することがとても大切です。(量的概念)
免疫抑制剤は、移植された臓器が身体の免疫システムから異物(敵)と見なされないように「拒絶反応を抑える」のを主作用として服用するお薬です。しかし、「拒絶反応を抑える」ことは、見方をかえると「感染しやすい(易感染)」という状態にもなります。この「感染しやすい」が副作用となります。免疫抑制剤はとても強力なお薬で、わずかな量で身体に作用します。このお薬が作用する量はとてもシビアなので、効き過ぎると副作用が強くなりすぎてちょっとした感染でも重症化しやすくなったり、逆に効かないと拒絶反応を抑えられないことがあります。その為、定期的に通院して、トラフ値(最低血中濃度)を測って、コントロールします。
お薬は主に肝臓で代謝されます(薬物代謝)。肝臓でお薬の有効成分を化学反応で別の成分に変えて、最後は尿や便などで体の外に出すのです。代謝は主に酵素でされますが、この酵素をハサミによくたとえます。ハサミで薬の成分をチョキチョキして、別の成分に変えて身体から出す…というのをイメージしてもらえば、わかりやすいでしょうか。この酵素の働きぶりは、人それぞれですので、同じ肝臓移植をしていても、飲んでいる免疫抑制剤の量が人によって違うのは、肝臓の代謝能力にも関係していることがあります。
さて、免疫抑制剤(特にタクロリムスなど)を飲んでいると、グレープフルーツを食べないようにと注意されます。病院によってはグレープフルーツなど大きめの柑橘類は避けてと指導する施設もあれば、「みかん・レモン以外は全部ダメ」という施設もあります。インターネットで情報共有が簡単に出来る現代社会ですので、違う病院で移植された方の交流も活発に行われています。そこで、「うちの病院はみかん・レモン以外は全部ダメ」とか「うちの病院は大きいのがダメ」とか、患者同士の情報交換で混乱を感じる方もおられると思います。
では、柑橘類はどうしてダメなのでしょうか?全部ダメなのでしょうか?
いろいろな文献を読んでみますと、2015年3月現在で言われているのは、「フラノクマリン」という物質が免疫抑制剤の代謝を阻害するらしいということです。「代謝を阻害する」とはどういうことでしょうか?
上に書いているように、肝臓で薬の成分は他の成分に変えられて、身体の外に出されます。これが代謝と言われるものです。代謝をする酵素はいろいろありますが、免疫抑制剤にある有効成分(シクロスポリン・タクロリムスなど)の代謝を担当する酵素は、「CYP3A4」といわれるものです。この「CYP3A4」に対して、フラノクマリンという物質が邪魔(阻害)をしてしまうのです。このCYP3A4のお仕事を邪魔してしまうと、免疫抑制剤の成分は身体の外へ出されず、また血流に乗って身体の中を回ってしまいます。身体の外に出されていないのに、また時間が来て薬を飲むとどうなるのでしょう…。薬の成分がまた「追加」されることになります。そうなると血液の中にある薬の成分がどんどん増えていきます。薬の血中濃度が高くなるのです。薬は決められた量を決められた間隔で飲みます。それは肝臓がちゃんと代謝して、身体の外に出す能力を測った上での量ですので、身体の外に出していないと、量が多くなってしまい、本来の作用が強くなりすぎてしまいます。本来の作用が強くなることは、主作用も強くなりますが、副作用も強くなります。副作用が強くなりすぎたりすると、身体に思わぬ影響を与えてしまう…それを避けなければならないのです。
ただし、これには「量的概念」を思い出してください。どんな薬でも、「決められた量」があります。「決められた量」とはその人に「主作用の効果がもっとも良い」分量です。食べ物にも同じことがいえます。量が「効果が出ない」量であれば、すぐに急激な反応がでることはありません。グレープフルーツでも、その体内に取り込んだ量によって、薬へ影響を与えるかどうかが変わってきます。また、同じグレープフルーツでも、どのグレープフルーツでも「同じ量」のフラノクマリンが含まれているとは限りません。同じ樹から採れるグレープフルーツでも含有量は違いますし、同じグレープフルーツでも「皮」と「果肉」では含まれているフラノクマリンの量は違います。ほんの一口を間違えて口にした場合で、すぐに急激な副作用が起こるというわけではありません。あると分かっているなら、食べるのを控えればいいし、万が一口にしても容態を観察して主治医に連絡のみで良い場合もあります。ただ、お料理や飲み物には食材として含まれる場合もありますから、お料理の食材に気をつけて、それを「継続的に摂取しないように」注意することは重要です。
さて、以上のことを整理します。
(1)薬は酵素によって代謝され、身体の外へ出される。
(2)免疫抑制剤の代謝を阻害する物質は「フラノクマリン」と言われている。
(3)「フラノクマリン」を摂り過ぎると、免疫抑制剤の血中濃度が上がってしまう。
(4)「フラノクマリン」を含む果物(主に柑橘類)を避ける。
以上のことがまずは基本にあります。となると、どんな果物(或いは食べ物)に「フラノクマリン」が含まれているかをリストアップすればいいわけです。インターネット上で実験結果として、フラノクマリンが含まれている柑橘類は、調べた所ざっと下記のものがありました。
グレープフルーツ・ぶんたん・晩白柚(バンペイユ)・夏みかん・ダイダイ・サワーオレンジ・絹皮・スウィーティー・はっさく・河内晩柑…
これらの果物は、実際に実験結果でフラノクマリンが含まれていたり、薬の血中濃度に影響が出ているという報告や文献がインターネットで見つかります。またフラノクマリンが含まれていないという検証がされたのは、
温州みかん・レモン・バレンシアオレンジ・かぼす
ただし、レモンの皮は避けるようにとの報告がありました。ほかの柑橘類については、報告なしというものもあれば、大丈夫というものもあり、一番慎重なまとめをすると、どの資料でも大丈夫と書かれているのは「温州みかん・かぼす・オレンジ」でした。
ただし、再度繰り返しますが、どんな食べ物でも「量的概念」というのがあり、食べ過ぎはよくありません。オレンジだって、現在いろいろな品種改良がされており、新種のオレンジや産地によっては変わってくるのかもしれません。気にし出したら、キリがない…というのはまさにこういうことです。こうした情報を踏まえた上で、どのように園や学校と話し合うと良いのでしょう。
子どもが「安心して楽しく集団生活」を送るためには、園や学校側の理解・配慮が不可欠です。しかし、集団生活では我が子一人を先生を見ているのではありません。中にはアレルギーのお子さんもおられますし、他の持病があるお子さんもおられます。個性で食べ物の好き嫌いの激しい子もいることでしょう。そうしたお子さんを数十人、一人や二人の教師が見ているわけです。教師も人間です。教師が我が子に配慮しつつも、集団生活の指導や教育をやりやすいように、私たち保護者も努力する部分があると思います。
園や学校側にお願いする配慮の選択肢としてはいろいろあります。
(1)柑橘類一切食べさせない。
(2)みかん・レモン・オレンジなら良い。
(3)月ごとに材料リストをいただき、保護者がチェックする。
と、だいたいこの三つの選択肢があるのではないでしょうか?どの選択肢が正しいという正解はないと思います。園や学校側の事情、教師の事情なども考慮に入れるべきだと思います。まず、親としてはどれを希望するか考えてみましょう。食育を考えて、「食べられるものは食べさせてあげたい」と思う親御さんもおられれば、「色々面倒くさいから、外では食べない方が無難」と思う親御さんもおられると思います。
ただ、もう一歩踏み込んで考えてみませんか?
(1)を選択された方、ご家庭では食べさせているのでしょうか?食べさせている場合、お子さんにはどういうように説明されてますか?
(2)や(3)を選択された方、お子さんが「自分」と「他のお友達」が違うと感じた時、どのように説明されてますか?
この柑橘類については、「食べる」「食べない」だけでもちろん問題を完結してもよいのですが、子どもが自分の身体や病気を知る上で、お子さんに説明する良い機会ではないでしょうか?どの選択肢でも、お子さんのためには変わりありません。でも、それでは「親が子どものために選択した」だけの結果で終わります。しかし、ここで一歩踏み込んで、どうしてその選択をしたのか、子どもに説明してみてはいかがでしょうか?
(1)で家庭では食べさせていた場合、どうして園や学校では食べさせていないのかをどう説明しますか。それは園や学校側が配慮してくれないからと簡単に説明するのか、集団生活というものは個々の部分まで手が回らない事実があるから自分が気をつけなければならないけど、それが今の◯◯ちゃんには難しいから、食べないようにしている…と説明するのか。明らかに後者の方が説明に時間かかりますし、理解してもらうには噛み砕いて話す必要もあります。でも、その説明努力をしている親からお子さんは何を感じ取ってくれるのでしょう…。そこからお子さんは自分の身体や病気について、親の気持ちをどう感じ取ってくれるのでしょう…。
(2)や(3)を選択した場合、学校によっては給食を色違いのトレーなどで配膳して、ミスをしないようにしているところもあります。そうすると子ども自身も他のお子さんも「あれ?違うぞ」と「違い」に気づきます。その「違い」を認識した時のお子さんの気持ちをどうフォローしていくとよいでしょうか。丁寧に食べられない事情を説明し、子どもが納得すれば、子ども自身がお友達に「自分はこういう理由だから、食べられないんだ。」と説明できるようになるかもしれません。それによって、友達がお子さんの事情を理解してくれるかもしれません。集団生活の中の「個」の部分を尊重しようということをお子さんも他のお子さんも学べるかもしれません。それが将来的には、お子さんのこと理解してくれる友人関係に発展…するのかもしれません。
一つ一つの選択は小さいことです。どの選択肢が最善最適というのはなく、お子さんの個性、周りの環境によっては違ってくるでしょう。大事なのは、どの選択をしても、その先にはフォローが必要ということではないでしょうか。フォローの仕方次第では、お子さん自身の身体への理解にも繋がります。