肝臓移植での移行期は、「小児期」に肝臓移植をしたお子さんが成長していく上での長期フォローアップのことを指します。身体のこと、病気のこと、服薬のことなどについて考えていきます。

 ここで書かれている考えについては、肝ったママ独自の考察も含まれており、必ずしも現在の移行期医療のスタンダードではありません。日本での移行期医療、特に小児の肝疾患については、まだ始まったばかりです。しかし、移行期医療というのは、医療者側だけが考える問題ではなく、患者側、特に患児の保護者側も考えていくべき問題であると思います。ぜひ、読者の皆様もご意見をお寄せください。

肝臓移植における移行期を考える

 小児期に肝臓移植を受けたお子さんは、永続的に免疫抑制療法を受けます。現時点での免疫寛容(トレランス)はまだ研究段階で、小児期に肝臓移植した患者で比較的多く免疫寛容になる症例があるとはいえ、現時点の医学では免疫寛容が臨床的に成功しているものではありません。従って、小児期に肝臓移植を受けたお子さんは、微量でも免疫抑制剤を服用し続けることが前提となることが多いです。
 免疫抑制剤を服用し続けることにより、外科的/内科的な合併症を併発する可能性があります。そうした中で成長する小児期肝臓移植患者は、移植外科だけでなく、他の診療科とも合わせて診察にあたる可能性もあります。
 また小児期に肝臓移植を受けたお子さんは、自身の病気に対する自立性が欠如している場合が多いと言われます。我が子に対し、どのようにして自立性を育んでいくか、小児期に肝臓移植した患児の保護者が考えていく課題だと思います。

保護者はどうあるべきか

 胆道閉鎖症で自己肝で成人した患児の移行期と、小児期に肝臓移植して成人した患児の移行期については、少し親の立ち位置が違うように考えます。肝臓移植という、「他人の臓器を移植することで健康になった」ことについて、生体であれ、脳死であれ、的確に子どもに説明し、受け入れることは簡単ではないかもしれません。子どもが自身の病気のこと、身体のこと、「移植」という医療のことについて、どのように説明を受け、受け入れ、考えていくか、親も一緒に悩み、歩む必要があるかもしれません。

(1)移植医療によって健康になったことを肯定する。

 移植医療を受けた保護者は子どもを救いたい一心だったと思います。その思いは子どもには伝えて良いと思います。しかし、その思いが子の「重荷」にならないように配慮をした方がいいかもしれません。特に脳死移植を受けた場合、聞いた話ですが「自分は誰かの犠牲で生かされている」と思い、悩み苦しんだ小児期脳死移植経験者のお話を聞いたことがあります。(成人とは違い、脳死移植を受ける選択を小児が自己決定しているわけではないので。)それは本人にしかわからない苦しみなのかもしれません。ですが、移植を受けた事実は事実として受け止めて、肯定することは必要だと思います。

(2)移植を親子で理解する。

 移植について親子で正しく理解する必要があります。理解することによって、免疫抑制剤を飲む必要性、定期的に検査・診察を受ける必要性、健康管理の重要性などを子どもに自身のこととして理解してもらいます。脳死移植の場合も、そのプロセスを話すことで、ドナーの思いなどを伝えても良いかもしれません。言葉を選ぶ慎重な作業ではありますが、親が寄り添って、共に向き合えばいいのではないかと思います。子どもが知りたい場合は、当時の移植に関わった医師やコーディネーターさんにお願いして、お話をしてもらうのも一つの方法かもしれません。

(3)外来で患児自身と主治医との関係を構築する。

 赤ちゃんの頃に移植していると、外来は親が子どもを連れて…から始まります。しかし、それはずっと続くものではありません。採血を嫌がるところから、少しずつ採血をする必要性を子どもなりに感じ取り、考え始めます。外来での主治医との会話も、自分のことと気づき始めます。子どもが「自分と関係ある」と気付き始めた頃から、年齢の発達にそって、説明をし始めたり、主治医との会話を促して子どもの「参加感」を育むことも大事ではないかと思います。また普段の街のかかりつけ医などでも、子どもが自分の言葉で自分の身体の不調を表現させる機会を作ることも大事かと思います。そうしていく過程で、「自分の体のことは、自分が主治医とやりとりすることが大切」という意識を持って行くと思われます。

 移行期については、保護者の意識がとても重要になってきます。保護者がどのようにして既往歴を子どもに説明し、子どもに服薬の必要性・通院の重要性を理解させることがとても大切です。しかし、多くの保護者は子どもの疾患などについて、医療の進歩とともに変化する知識や情報を「正しく」更新する場がありません。また、そういう「場」があったとしても、継続して学習する保護者も稀です。「保護者側にも勉強が必要」です。そういった「場」を病院や学会・患者会などで提供されるといいなと思っております。

子どもの「知る権利」とプライバシーを考える

◆子どもの「知る権利」

 身体について、病気について、子どもには「知る権利」があると考えます。ただ、「知る権利」と「理解できる年齢」は必ずしも合致するとは限らず、子どもの年齢発達度(理解度)にそって、「知る権利」を満足させる説明を考える必要が出てくるかもしれません。ドナーとの関係が親子であったり、親族であったり、場合によっては兄弟姉妹かも知れません。ドナーとの会話も、必要になるかもしれません。脳死ドナーから臓器提供をいただいて移植を受けたお子さんの場合は、より慎重に言葉を選びながら、移植の経緯を話すことになるかもしれません。
 多くの場合、子どもが自ら「移植する」と決めたわけではなく、親が保護者として「臓器移植を受ける権利」を子どもの代わりに決めました。その事を親もきちんと認識した上で、子どもに「移植した」ことを伝えましょう。「移植したこと」が子どもの「重荷」にならないように、配慮が必要かと思います。子どもが「知りたい」時がでてきたら、その「知る権利」を尊重してあげるべきと思います。親だけではなく、当時のことを知る第三者(祖父母であったり、親の兄弟姉妹であったり、主治医やコーディネーターであったり…。)からお話をしてもらうのも一つの方法です。

◆子どもの「プライバシー」

 また、病気や治療について子どもの「プライバシー」の問題も出てきます。その一方で、親には子どもを守り、安心して生活できるようにする責務があると考えます。そのためには、自己管理ができない、自分で説明できないお子さんは、周囲に事情を説明する必要があります。まだ幼い保育園・幼稚園や小学校時代は、園や学校側に、子どもの病歴や治療歴について説明することがあります。しかし、子どもの自己意識が出てくる思春期になると、子どもの「プライバシー」も尊重しなければなりません。小学校高学年や中学、高校などでは、自分の身体・病気・治療歴について、本人のプライバシーを尊重し、誰にどこまで話すのか、あるいは話さないのか、親子で話し合う必要が出てくるかと思います。
 子どもの年齢によって、親が主導できる部分と、成長にともなって子ども自身を尊重していく部分、親子や家庭で話しあったり、時には主治医や臨床心理士、ソーシャルワーカー、教師などを交えて、話し合う必要も出てきます。